2008年02月04日

St. Germain



明治通りはなんだかどっちつかず。
事務的な恵比寿の雰囲気に広尾の洒落た雰囲気が混ざって、
結構好きな通りだと、彼女は思う。
無駄がない贅沢。少し不便な気の利き方。
そんな通りにある小さなレストラン。

入り口でコートを預け、一番奥の席へ。

彼は時間通りについていたようで、
ビールはすでにグラスの半分をきっている。

「ごめんなさい。また遅くなってしまいました。」
彼女は、テラス側を背にして、席に着く。
香りのいいタオルで手をささっと温めるように拭き、
ウェイターに返すと、メニューもほとんど見ず
「じゃあ、まずミモザを。」と注文した。

ミモザの花言葉は秘密の愛だという。
昔、機内誌の読み物で読んだあまり面白くない
ショートストーリーに、そう書いてあったのを、
彼女はふと思い出した。
でも、そんな意味の深い理由で、
そのカクテルを選んだのではなくて、
唯単に、彼女のドレスの色と合うだろうと思って選んだだけだ。
ダークなセルリアン・ブルーのドレス。
裾は膝丈で、ふわりと広がるクラシックなデザイン。
広く空いた胸元には、淡水パールのラリエットを巻きつけている。

彼女は、ウェイターが去ってから、
再度遅れたことを謝った。
そして彼はいつもの通り、お忙しい中すみませんと言った。

最初のアペタイザーが来るまでに、
彼は出張のお土産を彼女に渡した。渡すときに
「細かいものを沢山買ってきてしまって、
迷惑かもしれませんが。」と言った。
彼は、何にしても彼女の迷惑になりはしないかと
気を遣うというか、心配をするのだが、
彼女にしてみれば、そんなふうに気を遣われるのが
少し寂しくもある。
仕事でも家庭でも気を遣ってばかりの人だから、
二人で会っている時位は、気楽にいて欲しいのだ。

彼がくれたお土産は、お菓子と、ライチ茶、
オリンピックのキャラクターの小さなぬいぐるみと、
エリザベス・アーデンの香水。

彼女はちょうど、
家でライチ茶を切らしたところだったのだといい、
封を開けていいか断ってから、筒を開け、香りを確かめた。
「いい香り。」
香水も気になるけど食事の後で。といい、鞄から
コットンのエコバッグを出し、全部その中にそっと入れた。

食事は滞りなく、ラムのスペアリブが品切れになった以外は
満足だった。ゆったり2時間半かけて食事をした。
2人とも、ワインを沢山飲んだ。

「あなたは、和食派だろうと思って、
候補に寿司屋さんとうなぎ屋さんを
入れておいたのに、どうしてこちらを選びなさったの?」
彼女はデザートとコーヒーを待つ間に聞く。

「おっしゃるとおり、僕は和食が好きなので、
最初は、うなぎか寿司にしようと思ったんですが、
ああいう場合、一番行きたい所を、一番に書くだろうと思って、
こちらにしたんですよ。」

実際彼は最初、うなぎ、すし、フレンチの順で、
予約の電話をいれてみるといったのだった。

「あら、ただ思いついた順ですのよ。
でも、余計に悩ませてしまいましたね。今度からは、
行きたい店は一軒ずつ挙げる事にします。
ごめんなさい。」

「いえ。あなたに悪いところなんて何一つありません。
僕がはっきり決められないのが悪かったんです。」

「またそんなことおっしゃって。我侭になるだけですよ。」

「いいんですよ。僕はその方が
むしろ嬉しいとさえ思うくらいです。」

デザートが運ばれ、もう一杯ずつワインを頼んだ。
会話の合間にちらちらと覗く彼女の舌が
やけに赤く媚惑的なのを、彼は注視して気づいた。

彼の欲望に気がついたのか、彼女はぐっと身を乗り出して言う。
「赤ワインには催淫効果があるんですって。ご存知でしたか?」

彼はどきどきしてしまって、言葉に詰まった。
いい大人なのに、どうしてか、
彼女の前では童貞に戻ったかのような気分になる。
困った彼を見て、彼女はニコニコしながら続けて言う。
「だから、ナンパの時は焼酎やポン酒じゃなくて、
ワインのお店に行ったほうがいいんですよ。きっと。」

「そんな。あなただけですよ、僕には。」

「そうかしら。おモテになるんじゃありません?」
彼女はニコニコと機嫌よく、ワイングラスを空ける。
そして、彼にじっと微笑みを向けるのだ。何のたじろぎも見せず。

「今夜のあなたは、本当にキレイで緊張してしまいます。」

「本当ですか?うれしい。」
上手にはぐらかしたものね、と彼女は一層ニコニコしてみせる。

「これくらい酔ってしまわないと、
ちゃんとそういうことも言えないくらい。」

「まぁ、もう酔ってらっしゃるの?」

「あなたと飲むと、どういうわけか、緊張しすぎて
まったくの下戸になってしまうんです。安上がりでいい。」

彼女はウフフと笑うと指輪のない指で、
火照った頬を冷ました。

「本当に会うたびに美しくなるから、心配です。」

「心配って、どのような?」

「誘拐されたりとか・・・」

「あら、そんなことをおっしゃるのは、
うちの管理人さんだけだと思っていました。
・・・とても明るくて面白いご夫婦ですのよ。
会うといつも、誘拐されないようにねっておっしゃるの。」

「ほら、やっぱり、誰でも心配になるんですよ。」

「そんなこと、ご冗談にきまってますわ。」

彼女はけらけらと笑い、もう一度、
「本当に変わったご夫婦ですのよ。」と言った。
よっぽど、管理人夫婦を気に入っているようだ。

食事の後は恵比寿まで出て、何度もセックスをした。
交わらない間も肌は触れ合わせたまま休んで、
すぐにまた体を重ねる。
二人とも相当に酔っ払っていたせいで、
途中何度も疲れて止めようと思ったが、
その夜は、結局4度もした。
それでもまだまだ足りなかった。

彼は一度、彼女がへとへとに疲れきってしまうまで
してみたいと思った。
彼女もまた、彼がもう干からびてしまうまで、
してみたいと思った。


Vanessa Paradis
オフィシャルサイト

St. Germain
by youtube.com



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