2007年10月30日

don't lie



彼が帰る時、オゲは
「good bye my lover, good bye my friend...」
と、アグンの十八番のジェームスブラントを口ずさんで、
「またすぐ遊びにいらっしゃいよ。」
と言った。

アユは彼女に「泣かないで。」と言って肩を揉んだ。
泣くような要素は一つもないので、彼女は顔をくちゃっとさせて
「泣かないわよ、どうせ明後日私も帰国すんだから。」

「空港まで送るんでしょ?」
「ううん。すぐそこまで。パコじぃが迎えに来てるから。」
彼女は素っ気なく答える。
「だれそれ。」とプトゥが怪訝そうな顔できく。
「ベモの運転手。歌うとかわいいの。」
「あんたって、ほんといろんなとこに友達いるよね。
いい頃合いの男がいたら紹介してよ。まじで。」
プトゥは31歳になるが、生まれてこの方、彼氏ができた試しがない。
器量はあまりいい方ではないし、頭もそんなによくない。
腕っぷしの必要な仕事を各地転々としながらしているので、
見合い話もこないようなあり様なので、
やたらともてる彼女に軽く憧れを抱いている。

彼女は婚約者を見送りに通りまで出た。
名残惜しそうな彼にハグとキスをさっとすると、
車に乗るように促す。空港で待たなくてもいいように、
ギリギリの時間の出発だ。
パコじぃは約束どおりの場所で待っていて、
私は乗っていかないことを知っても、
どうでもよさそうな表情を一瞬浮かべ、
にこにこと手を振って車を回しはじめた。
「気をつけて送ってきてね。」と彼女も手を振る。

彼女はやっと肩の荷が下りた思いで、引き返す。
駐車場のチャージャーのおじさんたちが、
旦那はどこにいったのかと聞く。
彼女は「日本に帰ったのよ。」と答える。
「じゃ、今夜は一人で眠るのかい?さみしいねぇ。」と
おじさんたちは助平に笑うので、
彼女は「やっとぐっすり眠れるわ。」と意味深な笑みを浮かべる。
実際は、毎晩酔っ払ってぐっすり眠っていたのだが。

1杯だけ、アラックのショットをご馳走になって、
バーに戻る道中、2,3人の顔見知りがやはり
「あれ?彼氏は?」ときいた。

バーではカウンターに一番近い定位置に、
女子3人が待ち構えるように座っていた。

「帰ってきた帰ってきた!」
「さぁ、そろそろ正直に話す時間よ。」
「さぁさぁ、座って座って!」

彼女は少しうろたえながらおとなしく座る。
「なに?どうしたの、みんな。」

「本当は、彼とは結婚してないんでしょう?」
とオゲがゆっくりかみ締めるように言った。

彼女は口の端からゆっくり笑い出す。
「参ったわね。どうしてわかったの?」

オゲもアユも口々に
「そんなのバレバレよぉ。」と言った。
「彼はあんたの何なの?彼氏?友達?恋人以上友達未満??」
オゲはきゃっきゃと笑って彼女の目をみた。
目元だけよくよくみると、兄妹でよく似ているなと
彼女は関係のないことを考えて気持ちを落ち着ける。
「彼は、一応婚約者よ。」
「じゃあ、もっと優しくしてあげなきゃかわいそうよ。」
アユは少し怒ったような声で言う。
オゲもプトゥもかわいそうだよと言った。
「それは、むりよ。」
「本当は、愛してないの?本当に好きなのは誰?
アグン?それともグス?」
オゲは少し真剣な声で言った。

彼女の顔を覗き込むようにして、答えを待っている3人の顔を
ぐるりと見渡して、彼女は植え込みの百合の葉に目を逸らした。

「グスが好き。なんだと思う。」

「なんだ、やっぱりグスかよ。」
オゲはつまらなさそうに椅子にもたれかかる。
ようやくここでプトゥが口を開いたかと思うと、
「でもグスは結婚してるじゃん。」と言った。

「えぇ、知ってるわ。」
彼女の毅然とした声にしゅっと線引きされたような気がして、
プトゥは次の言葉が出なかった。

彼女の本心としては、オゲたちにグスのことを聞きたかったが、
彼女はそうしなかった。
そうしないことが、少なくとも
彼女の株を下げないことをしっているから。

「帰国する前にグスに会いたいな。」
彼女があまりにも無防備に言い放つので、
真面目なアユは席をたち、プトゥは理解不能で、
彼女からもらった煙草を燻らせ、
オゲだけがまともに返事をした。
「来るよ。今夜はムリかもしんないけど。」

「それにしたって、彼はかわいそうだね。」
「どうして?彼、すごくわがままなのよ。子供みたいなんだから。
私、彼といて、女っていうよりお母さんみたいな気分になるの。
彼が、もっと男らしかったら、私も優しくするわよ。
昨日の晩なんて、勝手に携帯みて、なんでグスに電話したの?
ってきくのよ?日本では絶対ありえないのよ、携帯を見るなんて。
しかも、前にも一度見て、ケンカして、2度と見ないって約束したのに
それをやぶったのも問題よ。
指輪付き返してやろうと思った位なのよ。
でも、この3週間で私、太っちゃったから指輪がはずれなくて。」
女達はいっせいに笑った。
「マジメな話、来るときの飛行機ではぶかぶかだったのよ。
でも今はぜんぜん取れないの、ほら。」
彼女は実際にはずそうとしてみて、ちっとも抜けないので、
女たちはげらげらと笑った。

一通りわらって落ち着いたところでオゲが話を戻す。
「で、あんた本当に別れたいと思ったわけ?」
「その時は思ったわ。でも今はわからない。」
そう言って、彼女は氷のすっかり溶けてしまったアラックコーラを飲む。
オゲは神妙な顔でそっか、と何度か呟いた。


その頃、グスはというと、儀式は済んだが家に沢山人が集まって
遅くまで飲んだり話し込んだりしていたので、
家を出られずにいた。
バーにいけば、彼女が待っていることも知っていたし、
儀式が終わって緊張感や集中力が解けてしまうと、
彼女の肌の白さやにおい、少し舌足らずな話し方や、ぬくもりなんかが、
一気に思い出されて、頭がおかしくなりそうだった。
娘が風邪をひいてつらいときに娘のことだけを考えられない
自分の父親としての冷たさにも驚きを隠せなかった。
今、彼女の声を聞いたら、自分を止められなくなってしまうと思って、
かかってきた電話にはでなかった。


「やっぱり、出ないわ。」
彼女は残念そうにコンピアンの顔を見る。
「もう完全にクビだな。今夜は来れるはずなんだよ。」
彼女はうなだれて携帯電話を眺めた。
「しけた顔すんなよ。後で一緒に食いもん探しに行くか?」
「うん。。。」

彼女はアユを手伝って、テーブルの片付けをした。
コンピアンはBGMを止め、オゲはグラスを拭き、
プトゥは厨房を閉めた。

閉店直後にパンクスがきて、コンピアンは彼らの相手をするために
酒を開けた。彼は彼女に一緒に飲むかと聞いたが、
彼女はもう充分飲んだからいいといって、部屋に戻った。

グスのことばかり考えて眠った。
このまま会わないで帰国してしまったとしたら、
そんな悲しいことはないと思いながら、
明日こそはグスが店に来ますようにと願った。



Black eyed peas
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この記事へのコメント
この記事も気になるけれども、あたしゃこの一個前の記事の猫さんのバロンさんへのコメントが気になるよ。
人に寄りかかられて歩くよりも、一人一人ちゃんと自分の力で歩きながらも隣にいる、って方がお互い楽じゃないかねぇ。寄りかかられるのが好きなのか?その点うちの元相方は「対等な関係」を目指してたので楽だったわ。今は「あんまり頼りにされないのも寂しい」と言われる。いや、できることは自分で、が基本でしょ。できないことは頼むけどさ。
バーの女子3人、鋭いね。
Posted by うに at 2007年10月31日 10:47
●●●うにさん
バー女子3人鋭いでしょ。私のバリの姉たちです。バリ人に嘘ついてもすぐばれるんですよ。まぁバリ人の嘘もばればれなんですけど。コンピアンは最後まで旦那だと思ってましたがね。。。それか話を合わしてくれていたのかな。

さて。
寄りかかられるのは好きじゃないんですよ。自分のことは自分でできる人がいい(ってか当然ですよね)んですが、付き合う人はいつもなぜか頼りない+ナイーブ。最近は自分でスケジューリングもするようになったけど、昔は自分の予定すらちっとも覚えてないようなひどさだった。
一応進歩はしているのか??

「もっとしっかりした男になるよ。」とはいうけど、まだまだ口先だけですわ。てか、30にもなってその発言って、ありえなくない?
Posted by neco at 2007年10月31日 11:49
あ、私の書き方が悪かったね。「ボブは」寄りかかられるのが好きなのか?って言いたかったの。
スケジューリングねぇ・・・基本中の基本でしょ。
「もっとしっかりした男」ってどうやったらなれるんだろうね。いや、「もっと痩せる」みたいに指標が明らかなのと違って、「もっとしっかりする」って自分でしっかりしてからじゃないと自覚できないじゃない?「あー、逞しくなっちゃったよ」って猫さんが気づいたように。だからさ、「しっかりする」という目標に向かってどう進んだらいいんだろう、って自分だったら迷っちゃうなー、と思うの。だから「クチだけ」って猫さんが思っちゃうのも仕方のないことなのかもしれないなぁ。だってあまりにも漠然としすぎてるもの。
30か・・・ボブはまだ30なのか・・・。まだまだ成長の余地あるよ。ゆっくりでも、猫さんがキレない程度のペースを保って成長できてるならいいんでないの?
Posted by うに at 2007年10月31日 13:57
●●●うにさん
あっ、そういうことか!すみません。読解力が低下してます。。。
うにさんの「もっとしっかりする」論、納得しつつ、違う意味で笑ってしまいましたよ。やたらとそういう漠然としたことを並べ立てる輩がいましたよねぇ。まぁ、現実逃避していても彼らが幸せならいっか。

ボブ、今月31になります。うにさんのおっしゃる通り、ぼちぼち路線でしばらくはがんばります。どうしてもダメそうなら別れたらいいし、いけそうな気がしたらさくっとけじめつけりゃいいだけのことですよね。
Posted by neco at 2007年11月01日 11:03
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