2007年10月07日

ruokala lokki



私は旅行をするときに、観光というものをあまり励んでしない。
だいたい同じ場所にずっと留まって、のんびり暮らしてみる。

非日常を日常のように過ごすのって、
なんだかとっても贅沢だと思う。

バリ島は特に、すでに合計2ヶ月弱も滞在している場所だし、
1回目の滞在の目的上、かなりディープな地域を歩いてきたのもあって、
今更うろうろする気にもならないというのはあると思う。

とはいっても、過去の旅でも、人に誘われない限りは
やっぱり、だいたい同じ場所にいた。
例えば北海道では、宿のお手伝いさんとカレーを食べに行ったり、
一日中居間でCDを漁ったり、映画を観て泣いたり、
ブーンズを片手に晩飯を作ったり、
ルームメートの女の子と夜更かししてお話したり、
そんなかんじだったので、結局、
土地の真新しさはあんまり関係ないのかもしれない。

とにかく、バリではどこにもほとんど、いかなかった。
行かなくてはいけない理由がない限り。

少し長く滞在する街には、必ず常に通う食堂が自然とできる。
夕飯と時々朝食、休日には朝昼晩の3食ほとんどをそこで食べる。
私がいつも滞在する部屋にはキッチンがないので、
その食堂が、「歩いて5分」の台所となっている。

その店には、67歳になるママと、
二十歳になったばかりのかわいい大学生の娘がいる。
実の娘じゃなくて、養子だ。
ママは実の子以外にも、養子を何人か育て上げている。
ノールは、年齢的に考えても最後の養子だろう。
彼女の両親は、近所に暮らしている。

ママは英語もオランダ語もドイツ語も話した。
若い頃は、バリキャリだったに違いない。
どういういきさつで、こんなこじんまりとした店を
引き継ぐことになったのかはわからないけれども、
もてなすのが好きなママが、この店をすきなのはよくわかる。
ノールは、ママが一人だとかわいそうだからといって毎日手伝っている。
最初は愛想のない子だと思ったけれど、
単に激しく人見知りをするだけだった。

私とママとノールはいつもたくさんお話をした。
ママの若い頃の話と食べ物の話が多かった。ママはお話が好きなのだ。
ノールと私はバリの文化と宗教、特にイスラム教についてよく話をした。
ママもノールもムスリムで、一日5回のお祈りを欠かさない。

私からはいつも、日本語を教えた。
ノールからはたくさんインドネシア語を教えてもらった。
ママは特に、文法担当で
私のめちゃくちゃな接頭辞接尾辞をなおしてくれた。
一方でママは日本語をあまり知らなかったけれど、なぜか
「空芯菜」だけは間違わずにすらすらといえた。
ノールは頭がよく、一度教えた言葉はほとんど覚えていたし、
文法の誤りも、説明すればすぐ理解し、2度も間違えることがなかった。

ママは時々私の背中をさすりながら、他のお客さんに
「この子は私の自慢の娘さ!」と言った。
「もうインドネシア語もできるし、手で上手に食事もできるんだよ。」
そんなふうに言うくらいだから、
ママは本当に娘のようによくしてくれた。

食堂では一日中食べ飲みしても、
夕飯の分のおかず代だけしか請求されなくなっていたし、
私がクバヤという伝統的なブラウスを仕立てたいといったときも、
2枚もお下がりをくれた。
私が市場で買って来たクバヤ地の色に合うサロンを探しに、
一緒にポンコツのベモ(乗合バス)を貸切にして州都まででかけたのも
今では一番楽しい思い出だ。
私はママと一緒にがんばって、とてもいいバティックを
同じ生地の帯び付きで、半額以下まで値切って買った。
ノールは新しいジルバブがほしかったのだけれど、
気に入ったのがなくて、結局3人少ししょんぼりして帰ったのだ。
3人とも暑くて乾いていて、余計にうなだれた。
ラジオも何も付いてない、後ろの窓が割れたベモに揺られて、
運転手のパコじぃだけ、ご機嫌だった。

私はたくさん、もやしを食べさせられた。
もやしはバリでは、妊娠しやすくなる食べ物といわれている。
バリではナンパが面倒くさく「既婚」とウソをついているせいで、
新婚6ヶ月目の新妻な私に
ママもノールも「はやく妊娠しなくちゃ」と毎日のように言った。

それで、もやしがはいらないはずのおかずにも、
たっぷりもやしが乗っていたり、混ぜ込まれていたりするようになった。
炒めたもやしが、そっと添えられていることもあった。
これって、本気で妊娠したい不妊症の人だったら、
わりと辛い仕打ちととられる可能性もあるのかしら。
悪気がないにしても。

もやしだけでなく、とにかく店に座っている間は
どんどん何か食べさせてくれたおかげで、私は少し太った。
行きの飛行機ではぶかぶかだった薬指の指輪も、
なかなかはずれなかったので、
揚げ魚や揚げ鶏を手で食べるときもつけたままにせざるをえなかった。
彼女たちに言わせれば、やせすぎも妊娠にはよくないそうだ。
これは「もやし」よりも少しは、信憑性がある。

帰国するときも、決まって体に気をつけてと同列で、
「ちゃんともやしたべなさいね。」
といわれる。
「次来るときは、赤ちゃんもいっしょにね。」

それはちょっとムリだけど、
「またすぐ会えるから悲しくないもん。」
と言ったノールが本当に悲しくなってしまわないうちに、
出張が入らないなら、
休暇をとってでもまたすぐに行かなきゃと思う。


かもめ食堂
(荻上直子、2006年)

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