2006年12月07日

butter popcorn



すのこを浮かべたような小さな港から
まっすぐ一本だけ道が伸びている。

私と彼は
マッチ箱みたいにこじんまりしたフェリーからおりると
景色を眺め渡すわけでもなく、
なんでもないような具合に島の土を踏みしめた。

住民はキャディーカーに乗って
ゆるゆると、しかし、この島内では最速のスピードを
乗り回し、次々に奥へと消える。
観光客だけがいつまでもだらだらとそこに留まり、
私と彼はというと、すたすたと1本だけの道を歩いていた。

この街で最高級のレストランは
この街で最高級の島の入り口にある。

レストランの入り口付近では、給仕やバーテンが
思い思いの場所で午後の「準備中」時間を楽しんでいた。
「マシューはいるかい?」
彼は、目のやたらぱっちりした男に声をかける。
「あら、マシュー?キャンプ場の方で結婚式の準備してるわよ。」
男はくねくねと上ずったようなアクセントで答えた。

私と彼は、男に礼をいうとコトコトと足音を鳴らせながら
古い板張りのフロアを後にし、
再びぺたりと舗装されていない道に足をつけた。

さっきから気分がすぐれないのは、
さっき映画館で食べた
バターたっぷりのポップコーンのせいだろうと
小さなあくびを繰り返しながら歩いた。

森に囲まれて、さぁっと開けたスペースに
ドレスや背広姿の人々がもぞもぞと佇んでいるのが見えた。
走り回る子供達と犬。
談笑する中年達と、窮屈そうなブライド・メイドたち。
ファインダーにとびきりの笑顔を向ける新郎と新婦、その両親。

白いテントの下には、真っ白なクロスのかかったテーブルが
適度な間隔を保って配置されている。
鮮やかなブーケ。
ぴかぴかに磨かれたスプーンにフォーク、グラス。

なんとも形容しがたい、安っぽいカントリーソングは
ぶつぶつとノイズがまじりながら、
不快ではないヴォリュームで風景に溶け込んでいる。

私は「すてきね。」と言った。
彼も「すてきだね。」と言った。

隅でマシューがサラダを盛り付けているのが見えた。
私と彼は、マシューの傍まで歩いていった。

「やあ、兄弟。働いてるか。」
彼がそういうと、マシューはふわふわふわっと笑みを浮かべる。
「あぁ。来たんだ。ちょうどよかったな。今日はいい天気で。」

「えぇ。本当にいい天気ね。」
私の言葉にも、マシューはふわふわっと笑ってみせる。
そうすると、八重歯がぴょこっとでて、なんだかかわいいのだ。

「飯はくったの。」
「まだ。」
「ここで食ってくんだろ。あと1時間くらいで店開くから、
散歩でもしながら待ってろよ。ちょうど天気もいいしさ。」

よほど天気がいいのが嬉しいらしく、
マシューはその後も何度かいい天気というのを
理由にしたり、結論にしたりして彼と話をした。
マシューが同僚に呼ばれたのをきっかけに
手を振り、その場を去った。

新郎新婦は相変わらず、カメラに視線を投げかけていた。
カメラマンとその助手だけが現実的な格好をしていて、
後はさながら、映画を見ているような光景だった。

「私たちも近い将来こんなふうに結婚しちゃったりするのかしら。」
私がそういうと、彼は
「うん、いつかね。」と言った。

私は胃の中のポップコーンが膨潤するような錯覚を覚えた。
要するに、彼の答えが気に入らなかったのだ。

「いつか、いつかって、いつなのよ。
そんな事いってる間に、他の人に奪われちゃったらどうするの。」

カントリーがますます空虚に響いていた。
入り江にぽつんと咲いたひまわりは欠けていた。

「待てよ。その質問はおかしいよ。僕がどうするかじゃない。
君がどうするかだろ。もしかして、すでにそういう人がいるの?」

「そういうことじゃなくて、私は・・・」

そういうことじゃなくて、私は、
あんたの気持ちが知りたいだけなのに。

「ねぇ、僕の目を見て。ちゃんと話して。」

「いないわけじゃないわ。開店前のパチンコ屋みたいに、
自動ドアが開くのを待っているようなかんじじゃない。
私たちが別れるのを、列作って待ってるようなものよ。」

「つまり、僕と別れようっていいたいの。」

「違うわよ。それは違う。」

「じゃあなんなんだよ、その質問は。おかしいよ、明らかに。
もし、その男がプロポーズしたら、君はついていくの。」

「わかんない。もしかしたら、今の状態のままだったら、
あんたとは一緒にいられないと思うかもしれない。
自分の将来にすらちゃんと向き合えない人とはムリ。」
言いながら私はごおごお泣いていた。

彼は開きかけた口を、少し噤んで
大きくため息をつき、歩くのをやめた。
この会話の間、私と彼は歩き続けて、
1,2件の豪邸の前を通り過ぎていた。
私は彼が止まったのを気配で感じながらも、
足を止めることができなかった。
涙も止まらなかった。

「わかった。だから、止まれ。」
彼は私の側まで来て、肩をがしっと掴むと
「僕と結婚してくださいませんか。」
と言った。

今度は私の口が開きかけで止まった。
「何ですって?」
「僕と・・・結婚してください。いけませんか。」
この展開にすっかり動転しきっていた私は何も言えずに硬直した。
「僕の最愛の人、返事は?」
心配そうに覗き込む彼を前にしながら、
私は険しい顔のままうつむくことしかできず、
それから、道端によたよたと向かって、
白いバター風味の塊を吐いた。



この記事へのコメント
久しぶりに更新されてますね。この続き早く読みたいです!

そういや、内定出ましたよ♪
話は変わりますが、このフィオナアップルのビデオ見たときありますか?お勧めです。
http://www.youtube.com/watch?v=go0_ywPGobY&mode=related&search=
Posted by maya at 2006年12月07日 18:22
●●●mayaちゃん
え、これはこれで終わりだよ。続きないよー。
内定おめでとう!どこどこどこ?

フィオナのビデオ、いいアレンジだね。途中のsony must fry にウケタ。
Posted by neco at 2006年12月07日 19:36
きゃーっ!「吐いた」って言ってたから、何か別のことを吐いたのかと思ってたのに猫さんたらほんとに吐いたのね。
いやー、ボブ、やるのぉ・・・。お幸せにー。
そうそう、そろそろ修論も正念場よね。あんなのと同じにされちゃたまんないよな・・・なんて言ってもわかんないってか?提出まであと2ヶ月弱ってとこかな、頑張れー!
Posted by うに at 2006年12月08日 11:10
●●●うにさん
えぇ、はきましたよ。本当に。げろって。ピーナツクリームもまざっていたかもしれません。げろじゃなかったらおいしいかもしれません。。。
あんなのと同じにされちゃまじたまんないすけど、締切までまさに2ヶ月弱です。もつ鍋くいながらがんばるっす!
Posted by neco at 2006年12月08日 14:22
mayaさんに続いて・・

私も、この続きが見たいッ!


それにしても、necoさんってメッチャ可愛い〜。「いつかはね。」って言われたら、私はシュン、として何も言えなくなっちゃいそうだ。そこを泣いて怒る、って いい関係だから出来るんだろうなぁと、思いました。
Posted by mayu at 2006年12月21日 11:54
●●●mayuちゃん
いや、私が手綱握ってるほうだから、いえるんじゃないのかなぁ。
この続きは、弟マシューのレストランで入り江の景色眺めつつ、めし食って、寒くなったんで屋内で続き食って、仕事上がりのマシューも混ざって、3人でホットコーヒーのカクテルで締めて、フェリー乗って帰りましたのです。
Posted by neco at 2006年12月21日 15:09
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