2006年09月13日

le garde du coeur



チョイと3人でローカル街の屋台に入ることにした。
屋台の近くでユーターンをする時に、
ロビが後続のバイクにぶつかりそうになった。

後ろに乗っていた彼女の心臓は
口から飛び出さんばかりに跳ね上がり
それを見ていたチョイもいつもの冷静さを失って声を上げた。
ロビだけが平然と「おおっと。」と呟いただけで、
バイクから降りてもまだ、心臓がばくばくしたまま、
「もっと気をつけてよ」と騒いでいる彼女達を
不思議そうに見つめるばかりだった。

魔法瓶から熱い紅茶をいれてもらって
野菜たっぷりの茹で麺を作ってもらっている間、
チョイは紙ナプキンをさっと一枚とると、顔を拭きはじめた。
ふきふき、という擬態語がぴったりな速度で
彼は嬉しそうにナプキンを顔にあてた。
彼の大好きな趣味の一つで、飯屋に入ると必ずする。
排気ガスや埃にまみれた時は確かに気持ちがいいだろうなと、
彼女は試しに一緒になって顔をふいてみた。
ロビは「やめなよ、バカばっかりだと思われる」と言った。

なるほど。すごく気持ちがいい。
でも小一時間バイクを飛ばしただけで
こんなに顔が真っ黒になっているのは衝撃的だった。

食後に3人は煙草を1本吸った。
ロビの煙草はきつすぎるから、彼女はチョイの煙草をもらった。

白いスープだけが丸く沈んでいる
プラスチックの器に、灰を落とす。
こういう飯屋に灰皿はない。
そして、食べ終わった後の皿に灰を落とすのは
誰も構わないことだった。どうせ洗うのだから。
小食の男の子たちのお皿にはまだ麺が浮かんでいた。
麺とスープの白に灰色の粉が落ちる。
それはじゅんと音を立てて黒く広がった。

お腹が膨れて一服したところで、3人は夜遊びの場所を探した。
一晩中、音楽に酔って、踊れそうな場所。
その夜はサッカーのワールドカップの試合があって、
どの店もオージーやヨーロッパ人の若者で埋まり、
誰もがグラスを片手にスクリーンに見入っていた。

つまりどこも混んではいたが、乗りは最悪だった。
チョイは「つまんなそうだから、帰ってプレステする。」と
気を利かせたのか、ぶらっと友人の家に戻った。

クラブが並ぶ通りには、
南国を思わせるものは一つもなかった。
彼女にとって馴染みの景色であるはずなのに
ひどく居心地が悪かった。
誰もいない真っ暗なビーチにたどり着いたとき、
その時の方が、ずっと気分がよかった。

夜のクタの街を彷徨った。
何度も爆破されたディスコの跡地の横を通った。
そこでは髪をドレッドにした現地人が、
黒髪のぽっちゃりした白人の女の子を口説いていた。
少し不謹慎なんじゃないかと彼女は思ったけれど、
彼らの逞しさの前で生易しい道徳感は非力だ。

夜中を過ぎて、彼女達は中庭のある安い宿に泊まることにした。
そこでも近所のおじさんたちがロビーのテレビの前に集って、
サッカーを観たり、チェスをしたりしていた。

冷たすぎるシャワーを浴びるのを我慢して、
ブルーベリーの甘い酒を一口ずつ飲むと
それぞれ、小さなベッドに入った。
うとうと眠りにつきかけた頃に、
ドカン!と音がして建物が揺れた。

「コールガールでも来てるのかしら。」

「それにしては、随分な音じゃない?爆弾?」

「地震かな?」

2人は少し起き上がって、周囲の様子を探った。
おじさんたちがいるロビーの方から、
地震、地震と騒ぐ声がした。

「なんだ、地震か。」
彼女はまた、少しごわつく毛布を被った。
彼は「怖いよ。」と言ってまだ半ば起き上がった状態で
彼女の方にある窓をじっと見つめていた。
「大丈夫よ。小さな地震だもの。」

「でも、また来るかもしれない。」
「大丈夫よ。大きな建物だもの。
ジョグジャみたいに簡単に崩れやしないわ。」

「僕、地震ってあんまり知らないんだよ。本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。おじさんたちだって、
もうゲームに夢中になってるじゃない。」

「うん・・・。そうだね。」

「怖くて眠れないならこっちにきてもいいわよ。狭いけど。」
彼は自分の毛布と枕を掴んで、おとなしく彼女の隣に横になった。
彼女は彼の体をしっかり毛布に包むと
上から優しくさすってあげた。

「僕が病気になるとお母さんがよくこうしてくれたよ。
僕はとても安心してすぐ眠ってしまうんだ。」

「そう。」
彼女はそっとロビの額にキスをすると、
「穏やかな夢を。」と呟いて
肘で支えていた頭を枕に埋め、すぐに眠った。

真っ白な朝が来て、
光と廊下の喧騒で目を覚ます。
中庭に面した廊下の各部屋の前には
1セットずつテーブルと椅子があって、
朝の空気を楽しみながら朝食をとることができる。
ロビは既に外で、隣室の客と話をしていた。
彼女がジーンズを履いて外に出ると、
向かいですでに朝食をとっている
老夫婦と青年が挨拶の笑顔を送った。
彼女は笑顔と手で返事をした。

この島は朝が一番気持ちがいい。
彼女は去る直前になって漸く、意識的にそう思った。



優しい関係
Francoise sagan(1968)


この記事へのコメント
何か、朝の風景も夜の喧騒にも、日本とは全然違う空気を感じますなー。
それがアジアの雰囲気なのかなあと思いつつ読んでます。あ、古ーいユースホステルはちょっとアジアっぽいかも。いつも狙って古い所に行くのはそのためだったのか・・・(笑
Posted by はじっこ at 2006年09月14日 06:21
方向性が変わった。
チョイは意外ときがきくのね。
Posted by うに at 2006年09月14日 15:02
ホントに朝が好きだったな。空気がきれいだったし。

街中でバイクに乗るのは怖ぇ〜。
Posted by 牧歌 at 2006年09月14日 17:57
●●●はじっこさん
何が違うって、朝めっちゃ早いんですよね。4時からおばちゃんら起きてなんかしよる。夜は夜でぱたっと静か。
ここの宿は、夜ついた時は療養所みたいと思ったんですけど、朝の雰囲気はシェアハウスさながら。ご近所さんと顔合わせながら朝飯。
Posted by neco at 2006年09月14日 18:26
●●●うにさん
チョイはめちゃめちゃいい奴なんですよ。自分年上だけど、普段はどーかしんないけど、私の前では必ずロビをたてる。
店で値段交渉中はたまに真剣になりますがだいたい冗談ばっか言ってて楽しいオニーサンでしたわ。
Posted by neco at 2006年09月14日 18:29
●●●牧歌さん
朝はまっさらな感じでしたね。特にウブドの晴れの朝はすがすがしさ満点。

山道で自転車が実は一番怖いですよ。。。。野犬が追っかけてきますから。
Posted by neco at 2006年09月14日 18:31
こんばんわ。ゆるーい感じのブログ初めてみました。ヤプログ、良かったら覗いてください。続くと良いな★

Posted by maya at 2006年09月14日 22:44
あー。この頃少し肌寒かったのかしら。そんな感じ。そんなときの朝なイメージです。
Posted by ありんこ at 2006年09月15日 10:22
●mayaちん
お知らせさんきゅう。続けるのは難しいことじゃないさ。ヤプログは編集画面が使いやすいらしいねー。
Posted by neco at 2006年09月15日 14:52
●●●ありんこさん
クタの朝は全然寒くなかった。やっぱ海辺の街はぬくいわ。でも乾季だからぱりっとしてる。山の方はまじで肌寒かった。
Posted by neco at 2006年09月15日 14:55
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