2006年08月31日

ジェニィ



閉店頃に彼女が店に行き、
チョイとロビと3人で店を閉め、
ロビの部屋まで歩いて帰り、
ロビがシャワーを浴びてから、
2人で手を繋いで飯屋に行き、
帰りに煙草とビールを買って、一緒に眠り、
朝早くに彼女を宿まで送る生活が続いた。

街の人たちはロビと一緒にいる女の子について
好奇心のはじけるまま、噂を広め、
時折そういう噂に無頓着な青年が
「ロビ、いつ奥さんを娶ったんだい?」
と、スナフキンのように飄々と尋ねた。

2人は街の人たちの下世話な笑顔にさえも
初々しい笑みを湛えて、通りを歩いた。

繋いだ手と手を揺らすたびに
胸が甘酸っぱい感情でいっぱいになってくる。

彼女は自分がこんなに女の子らしく振舞えることに驚いた。
今まで恋愛には斜に構えていた自分が、
一体どうしたのだろう。
彼だと素直に甘えられる。
毎日淡い水色やピンクの綿菓子みたいな気分の自分を
こそばゆいと感じながら、それを嬉しいと思った。

そうやって日々は過ぎていき、
彼女が街を去る日も近づいていった。
2人は帰国の日についてあまり話はしなかった。
それは1週間前になっても、現実のように思えなかった。


ある夜、店を閉めて部屋に戻ると
シロイが一生懸命に鳴いていた。
何か訴えるように彼女の周りを右往左往し、
何度も鳴いた。

「どうしたの?シロイ。」
彼女はシロイに話しかけた。
「シロイ、どうした?」
彼も続けてそう言った。

「黄色のガールフレンドと喧嘩でもしたの?」
彼女はしゃがんでシロイを抱えてみる。
シロイは鳴きすぎてかれた声でぐにゃーといった。
発情期の感じとは違う。

シロイを心配して、夕飯を外で食べず、
持ち帰りにすることにした。
彼は鶏のから揚げ、彼女はなまずのから揚げを
それぞれ包んでもらい、
水を買って部屋に戻った。

門をくぐったところでシロイが待っていた。
今度は落ち着いて彼女の顔を見てもすんとも言わなかった。

「変なやつだな、シロイ。」
彼がそういうと、つんとして足首をぺろぺろとつくろった。
「シロイ、なまずのから揚げを買ってきたのよ。
欲しかったら、後でいらっしゃいな。」

シロイは彼女の方も見ず、耳だけちょっと動かして、
足首をぺろぺろと舐め続けた。


彼女が手で食事をするとき、
ロビは彼女の動きから目が離せない。
決して下手なわけではないが、
ごはんだけ、なまずだけ、野菜だけを
少しつまんで、おぼおぼと口に運ぶ様子が
愛らしく思えたのだ。

ロビはいつも、肉をちぎってソースにからめ、
ごはんをつまんで一緒に食べるんだよ。
と、小学校の給食で習う「三角食べ」のようなものを
彼女に教えたが、言われた直後は手をぎこちなく使い
なんとなく言われたとおりにできるのに、
次の食事の時にはもう、もとの食べ方に戻っているのだ。

指先に付いた米粒やソースをぺろぺろと舐める様子も
子供みたいでかわいいと思った。
彼は自分の手を止めて、始終にこにこと彼女を眺めた。

「シロイはね・・・・」
食事中、話題をシロイに変えた途端、
窓の外から迷惑そうに、にゃおんとシロイが鳴いた。

「自分の話をされてるの、わかってるのね。」
彼女は喜んできゃっきゃと笑った。
そしてなまずの骨と鶏のあばらの部分を
ごはんを包んでいた紙に載せ、ドアを開ける。

すぐドアの前にシロイが座っていた。
「待ってたの?賢い子ね。」
紙ごとテラスに骨を置くと、シロイは
ぐるぐると喉を鳴らしながら、なまずの頭にかじりついた。

シロイのお父さんはロシアの猫なんだとロビはいった。
ロシア人の長期滞在者が連れてきて、
ここらに住んでいる雌猫と恋をして、
6匹の仔猫が生まれた。
そのうち真っ白だったのはシロイだけだと説明すると、
最後にぽつりと付け加えた。
「でも、シロイが何番目の兄弟なのかはわからないんだ。」
残念そうな彼を、彼女は笑った。


シロイはその夜、
黄色いガールフレンドには会いに行かず
彼の部屋に居座った。
彼と彼女の間で丸くなって眠った。



ジェニィ
Paul Gallico(1979)

この記事へのコメント
シロイは何で一生懸命鳴いてたんでしょ。
寂しかったのか、猫さんが近いうちにいなくなってしまうのを察してたのか。
猫ってやっぱり怖いな。色んなものを見透かしてそうな目とかさ。
手で食べるのって難しい。シンガポールで挑戦してみたけれど、店員が苦笑しながらフォークとスプーンを持ってきてくれた。あ、見苦しかった?ごめんね、って感じ。
Posted by うに at 2006年08月31日 22:19
●●●うにさん
それは未だにわからない。やたら必死だったんですよねぇ。何か言おうとしているっぽかった。でもわかんなかった。シロイは今までであった猫の中で一番賢かった。

手は親指を押し出すようにして使うと、汚さずにそこそこきれいに食べれますよ。私の食べ方がよろしくないのは親指あわせて基本3か4本しか使わないせい。5本全部使ってわしっとやるのが自然なかんじらしいです。
Posted by neco at 2006年08月31日 22:50
このときの綿菓子みたいな気持ちは何処へ行ってしまうのだろう。
このときの甘酸っぱい感じは恋愛感情なのか、それとも別の何かなのか。
いろいろ考えると、何だかちょっと切ないです。
Posted by びぃこ at 2006年08月31日 23:41
●●●びぃこちゃん
飛行機にのった瞬間に、じわっと溶けて消えてしまえば、何の苦労もなかったんだけども、綿菓子はいつまでもへちゃへちゃと心に張り付いて、いつまでも甘い砂糖の匂いを篭らせているのです。
どうして物事は、順序を保って進まないのかと思う。
Posted by neco at 2006年09月01日 14:07
シロイは猫ちゃんが帰るのが寂しかったんですね。ワタシはそう思います。

この人には素直に甘えられる人って人いますよね。どっちのnecoさんもnecoさんらしいんだと思うのです。
Posted by ありんこ at 2006年09月01日 16:40
●●●ありんこさん
寂しかったのかな!と思い込みたくなるよね。あぁ、愛いわ。実にうい。

かつてない純情な気分を味わった。
Posted by neco at 2006年09月01日 17:47
世の中には、3種類の食べ方しか存在しません。
1.箸
2.ナイフ+フォーク+スプーン
3.手
Posted by keiko at 2006年09月01日 23:21
●●●keikoさん
かの国で一般的なのは、2と3.
2はスプーンとフォークだけなんですけどもね。らーめんもスプーンとフォークで食べるのです。

手てどうかなー、と思ってたんですが実際やってみると楽しい。指先の感触がたのしい。未だに恋しくて、隙さえあればやたら手づかみで食べてしまいます。大問題ね。。。
Posted by neco at 2006年09月02日 00:31
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