2006年07月29日

indomie



観光客はほとんど通らないローカルの通りには、
ビリヤード小屋が最低1件はある。
そこには朝から晩まで若い男の子たちで賑わっていて
賭け事も酒も、音楽も揃っている。

夕飯を食べた後、宿に帰る途中で彼女は
ビリヤード小屋の前を通る。
そこでしょうもない冗談とアラックをひっかけるのが
毎晩の楽しみだった。
酒は買わなくても歩いていれば、振舞われる。

彼女はアラックを3ショットごちそうになって、
エカに待ち合わせ場所まで送ってもらった。
エカは彼女を妹のようにかわいがったが、
会えば必ず1度は「よければ、バリの恋人になるよ。」と言った。
彼女は聞こえないふりをするか、
「タン・ブリ」と柔らかく拒否をした。

待ち合わせ場所の薬局の前は暗く、
彼女は向かいのショーウィンドウの前で待った。
デワは数分で彼女の前に現れ、こっそりキノコを見せてくれた。
初めて見るキノコに彼女は幾らか期待をしたが
それは何の変哲もないただの茶色いキノコだった。

若者たちがたむろしているキオスで
インスタントラーメンを作ってもらった。
その中に刻んだキノコもいれてもらった。
アラックを一袋と、スプライトも袋に入れてもらった。
ピーナツをかりっと炒めたお菓子もつけてもらった。
お皿とスプーンもついでに借りた。

デワの実家の前には大きな豚がいた。
彼女は蚊に食われながら、豚をじっと観察した。
かわいくはないが、愛想はいい奴だった。

ワールドカップを見ながら、キノコ入りのインドミーを食べた。
デワは小口切りにした緑の小さな唐辛子を丁寧にはじいた。
麺は延びてしまって、ちっともおいしくなかったが、
熱いスープは夜気に冷えた体においしかった。
キノコ自体は歯ごたえもなく風味もよくはなかった。
彼女はアラックに酔った振りをして、途中で食べるのをやめた。

アラックを呷りながら、感覚が来るのを待った。
デワは何度も彼女に気分を尋ねた。
隣の部屋では集会から帰ってきた彼の弟が
仲間たちとPS2に興じている。

ラジオから流れてくる、アメリカのわがまま女の歌に
2人で笑いこけながら踊った。
「あなた英語わかるんでしょ。」
「わかるよ。商売だからね。」
「悪い人。私の下手なインドネシア語をおかしがってんでしょ。」
「いや、英語や日本語は必要ないくらい上手だからだよ。」
「うそばっかり。」

くるくる回るうちに
アラックが先に彼女の足元を絡ませた。
「キノコの前にアラックに酔ったわ。」
その場にへたりと座り込んで、彼女はスプライトだけを
袋に口をつけて飲んだ。
意識はハッキリしている。
この島に来て、沢山強いお酒を飲んだが、
一度も酔っ払ったことはない。
それだけ気が張り詰めているということなのだろう。

「あんた、ハッピーか?」
「なぜきくの?」
「キノコはどっちかだ。たまにすごく鬱になるときがある。
そうなるとちっともよくない。
あんたにはハッピーな気分でいてほしいんだ。」
「幸せよ。」
「そうか。なら、いいんだ。」

彼は彼女のうなじに吸い付いた。
「いや。」
彼女は彼の肌を押しやった。
「なんで?きもちいいよ。」
彼は彼女の体を優しく撫でた。
その手を彼女は受け付けなかった。

「いやなものはいや。
恋人以外の人としてもきもちよくない。」
「どうでもいいじゃん。ここはバリだよ。」

彼女はちっと舌打ちをした。
バリだろうがどこだろうが、
したい・したくないの分別がいちいち変わってたまるか。

「帰りたい。おなか痛い。生理なの、今。」
「帰りたいの?大丈夫?」
「ええ、帰りたい。」

彼はたばこに火をつけると一息ふーっと吐いて
「わかったよ。」と言った。

そしてまた「気分は?」ときいた。
彼女は「助平のせいで害したわ。」と笑って答えた。
「あなた、運転できるわよね?
できなきゃ、うちのワヤンを呼んでこさせるわ。」
「いや、できるよ。悪かった。
俺、半年くらいもう、やってなくてさ。」
「うそばっかり。」
「うそじゃないさ。」

「うそばっかりね。」
彼女はいたずらたっぷりに彼をじっとみた。
彼は彼女から視線をはずすと、
弱く笑いながら「違うよ。」と言った。


その夜彼女がベッドで見たのは、
カタカタと迫ったり引いたりする壁。
沢山の昆虫の列と鮮やかな色水がつるつる走るチューブ。
ぐにゃぐにゃと伸縮するミロの絵みたいな毛の生えた塊。
眠りに落ちる感覚は身体が落下する感覚。

眠れないまま、水溜りに転んだかのような寝汗をかいた頃に
最初の鶏が鳴いた。

世界が帰ってきた感覚にほっとして
熱い紅茶を淹れて飲んだ。


indomie
すごくおいしいわけではないが、庶民の味。


この記事へのコメント
あら、一番だわ。こんばんは、ご機嫌宜しゅう。
ご無沙汰ね。そうでもない?うん、「あの人」の環境の変化のお手紙を頂いた。お返事を出すのに、時間が掛かっているの。
会いたいけれど、無理してまでも会うのは好きじゃない。でも、会えるといいな。
Posted by レベッカ at 2006年07月29日 22:05
●●●レベッカさん
こんばんみー。レベッカさんがいらっしゃらないと、一日千秋の思いです。
会えるといいですねぇ。交通費だけで結構バカにならないでしょう?楽しみにしてたけどこればっかりはごねれませんものねぇ。

で、レベッカさんは水平線派?地平線派?
Posted by neco at 2006年07月29日 23:11
お父さんは娘の姿を想像して、ハラハラしております。キノコは椎茸にしておきなはれ。
Posted by 牧歌 at 2006年07月30日 00:31
●●●牧歌さん
お世話係のおにーさんってのがいたんですけど、彼はどうにもこうにもすっごく口うるさくて、帰る前は必ず2,3個「〜しちゃだめだよ」を言って去るんです。超慎重。キノコ食ったなんて言ったらどう怒られるかわかったもんじゃないっす。

4つ年下の甥っ子さんが宿の裏にビリヤード小屋の近くに住んでて、たまにかまってもらってたんですが、彼も「おじさんはくちうるさい。」といっていました。でも彼も私と同じくらい奔放なんですよね。

やんちゃっ子が増えておじさんも大変だっただろうなぁー。
Posted by neco at 2006年07月30日 10:08
どっちもかなぁ。水平な境界線はhorizonです。仕事でさ、帳票関連の機能の場合、日本の会社ってすぐに線を引きたがるから、horizontalとverticalは対語で使うかなぁ。
会社ね、MSNではないチャットアプリがあるの。全世界の社員と話が出来るのよ。便利だけれど、正直嬉しくない。
だって、サリーさんともそれじゃあお話しできないんだもの。もちろん、猫さんとも。
っていうか、最近自分の話があまり面白くない。うんざりしちゃう。これは、何か充電が必要かなぁ?って、この間3週間も休んでたんだけど・・・
Posted by レベッカ at 2006年07月30日 20:59
キノコ食べるとそんな幻覚に襲われるんだ・・・こえー。ヤクルト1本分のビールでも似たような効果あり(いや、その前にブラックアウトしちゃうからだめか)。
キノコも怖いけど、隙あらば、って殿方たちも怖い。
Posted by うに at 2006年07月30日 22:08
●●●レベッカさん
レベッカさんとメッセでからめないのは実際つまんないですね。てか今般、私もうにさんもオフラインだったり、取り込み中が多いですけどね。

新しい職場にも慣れてきてどどどっと疲れがでてきたのかもしれませんね。アクティブなレベッカさんには酷な提案かもしれませんが、たまにはのんびりのんびりされてはいかがでしょ。
Posted by 猫 at 2006年07月31日 01:38
●●●うにさん
初心者は吐いてしまう人もいるらしいですよ。汗がだくだくと出たのにはびっくりした。いくつかの器官が激フル稼働ってかんじでした。いやー、動きは緩慢なのに煮えたぎるようなアグレッシブさ。さらに今までの人生で一時に一番大量に汗かきましたねぇ。紅茶がおいしかったですばい。

キノコの毒は排出されないらしいですね。溜め込んで、たまにフラッシュバックを味わいながら歳をとるんだ、おいら。環境ホルモン云々で世間は大騒ぎしてたけど(なんか落ち着きましたね。最近)、本当に危ない物質て自然界にこそ、ごろごろしてるんだぜ!自然は厳しいのぅ。

うにさん、アラックなんて一口舐めただけで救急車よばなきゃいけなさそう。酒入りのチョコレートなどもダメ派ですか?きをつけよう。。。
Posted by ねこ at 2006年07月31日 01:49
酒入りのチョコも、アルコールが浸してあるケーキも奈良漬もアルコール消毒もダメ。飲むだけじゃなく、肌につけるのもダメなのよねー。
でも、酔っ払いを観察するのは好きです。
Posted by うに at 2006年07月31日 13:21
きのこの毒は排出されない?!こわいなぁ。

1つ疑問がアラックってどんなお酒なんでしょう?
と、一袋って単位なんですか?ビニールで飲むの?
おバカでゴメンなさい
Posted by ありんこ at 2006年07月31日 13:59
●●●うにさん
消毒もっすか!なんてこと。。。。
酔っ払いはたしかに見てて楽しい。
やるのは次の日どっと疲れる。
Posted by neco at 2006年07月31日 14:04
●●●ありんこさん
アラックは、椰子の蒸留酒。けっこうキツイんです。小さいカップにまけまけにいれたのを、一口できゅっと飲むのがルール。ちびちびなんて飲んじゃダメ。だいたいコーラとかスプライトで割ってのむのが庶民の味。たまにジャムゥっていう漢方みたいなんと混ぜて飲む人もいるさー。

で、キオスなんかで少しだけ買うと、透明のビニール袋に入れてくれるんです。
インドミーも袋にいれてもらいました。

飯屋でスープ持ち帰るときも、ビニールにいれてくれるんだよ。
万能ですなぁ、ビニールは。
Posted by neco at 2006年07月31日 14:12
椎茸や舞茸、しめじなんかの食用キノコは大好きな私ですが、この中に登場するキノコは非常に怖い。
うにさんのコメントで思い出しましたが、母に聞くところによると、私は子どもの頃に奈良漬を食べて酔っ払ったことがあるらしいです。

そんな私は水平線派。
Posted by びぃこ at 2006年07月31日 14:36
●●●びぃこちゃん
キノコ、微妙な食感でねぇ。ちっともおいしくないので、こまかくきざんでオムレツにいれちゃったりするのよ。

うちの弟は梅酒の梅で酔っ払うわよー。

水平線派ひとりみっけ。
Posted by 猫 at 2006年07月31日 16:01
だめよ、駄目。そんなゆっくりするの嫌。
ゆっくりするのは、平日だけで十分だわ。
Posted by keiko at 2006年07月31日 21:48
●●●keikoさん
やっぱり却下?てか平日ゆっくり?さすがですねぇ。
Posted by neco at 2006年07月31日 23:45
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