2008年09月09日

Jammin'



太腿をちらちら振り返ってみてばかりで、
ほとんど正面を見ないドライバーにうんざりしつつ、
タクシーをかなり手前で降り、というのは、
休日の夕方に海水浴をしにくる
現地人でビーチの駐車場がごったがえしていて、
それ以上進めなかったからであり、
私は熱気ムンムンの人混み、バイク混みの中をずしずし歩いた。

ドライバーのしつこいナンパに疲れたので、バーで一服。
地元民でごった返してはいるが、
地元民はこのグリルバーにはほとんど来ないので、というのは、
この店のだいたいのターゲットは、
ビーチの露天商に怖くて近寄れないもしくは、
こざっぱりしたところで飲食をしたい外国人観光客だからで、
地元庶民には高いし、ローカルプライスの2、3倍の値段を払うほどの
価値は見出されないからだ。閑散としていた。
暇そうなスタッフらとパズルを解く、ちびっこらと絵本を読む、
などして、しばらくまったり過ごし、
きりがいいところで部屋に戻って、
テラスで少し読書をしたり、繕い物などをしたりして、
夕方のシャワーを浴びた。
この部屋のシャワーから温水を出すには少し工夫がいって、
目一杯熱湯を出してから、マジックで印されたところまで戻し、
冷水の蛇口を目一杯ひねらないと、いつまでたっても温水がでない。
しくみがどうなっているのかよくわからないけれど、
いつもこの部屋に泊まるので身についたものだ。
ちなみにこの部屋、ドアを閉めるにも工夫がいって、
少し上にひっぱり気味にしないと、床をすってスムーズに閉まらない。
そんながたがたな部屋だけど気に入っている。
チェックイン・アウトの時間が決まってないし、
スタッフが周囲にいなくても、
勝手に引き出しから鍵をとって、
勝手に部屋に上がっていて構わないユルさがすばらしい。

髪をタオルでわしわしと拭き、ぎゅっとてっぺんでまとめる。
アイラインをしっかりとって、マスカラを重ね、
恐らく激しく日焼けしたであろう唇にリップを塗りたくり、
うなじやデコルテにもたっぷりチトラというローションを塗った。
それから、渡航の前日に一緒に居酒屋にいって、楽しく過ごした
バロンチャさんからのプレゼント、パシュミナのストールを巻いて
部屋を出た。
昼間みたいに水着に薄手のシャツ、ミニスカートなんて格好じゃ、
寒くて耐えられない。
バロンチャさんと飲んだ夜は、翌日のためにセーブしていた分、
彼女がおいしそうに次々グラスをあけるのが内心すごく羨ましかった。
平日はさすがにセーブして飲んだけど、
今夜は土曜、しかもグスも来る。
ぱぁっと飲み倒してやろうと、うっきうきで軽くスキップしながら、
門を出た。

バーでは新メニューでパスタが5種類ほど、
ハンバーガー類が5種類ほどできて、メニュー表にページが増えた。
私は少し辛目のルンダンと野菜スープを頼み、ビンタンを飲んだ。

グスは食事が終わって、
アラックとコーラを瓶で頼んだ頃にやってきた。
グスが辞めた後に入った新しい若いスタッフは、
遠慮して別のテーブルに移った。
プトゥだけは遠慮なく一緒に座っていた。
ラノムの夫のグストゥだけカウンターから、
普段あまりみせない笑顔を向けた。私も笑顔を返した。
なんだかんだ、私とグスの仲を心配してくれていた人の一人だ。

プトゥは満面ににやにや笑いながら、
「今夜グスが来るの知ってたの?」と聞いた。
「えぇ。だって8時って約束してたんだもの。」
「どうやって約束なんてできたのさ。」
「お昼に会いに行ったから。」
「は?グリヤまで?」
彼女はつい大きな声で言った。
それまではひそひそ話だったのに、グスにもばっちり聞こえる音量。
「そう。お散歩したのよ。」と私は言った。
「ずっとこっから、歩いてきたんだよな。ここをまっすぐ、だろ?」
「うん。そうよ。」
私は何でもないことのようにつんとして返事した。
「全然想像つかねぇよな。ウケる〜。」
グスはげらげら笑って、
「いい子、いい子、元気な子〜」と言って私の頬を両手ではさみ、
ぐりぐりにした。
「痛いよ、もう。」
私は、いやいやして逃げて、うひゃひゃと笑った。

「それでさ、ビーチのレストランのコックらに、聞いてさ、
わざわざバックヤードまで案内してもらったんだってよ。
俺、最初全然気付かなくてさ、うわっすっげー美人来た!!!
てか、なんで客がバックヤードに用があるんだ??と思ったら、
こいつでさ、も〜びっくりしたの、なんの。
髪型違うしさ。こんなぴんぴんに短いスカートはいてるしさ。
わかんねぇよなぁ。。。
しかも、後でコックとか、見かけたやつらに、
根掘り葉掘り聞かれて大変だったんだぜ。」
グスはものすごく嬉しそうに、プトゥに昼間のことを話した。

私はアラックを神様にお供えするために少し植え込みに零し、
それから、グスのグラスから注いであげた。

グスはコンピアンや、グストゥやお父さんにも、
プトゥに言ったみたいに、昼間の衝撃を話した。
みんながげらげら笑った。私も、グスも笑った。

私たちはアラックを1本空けるごとに、散歩をするといって席を立った。
ヘリポートまで歩いていったり、
カフェクラブのある駐輪場までいったりした。

いいのに。といっても、グスは私の夕飯代も一緒に払ってくれた。
店の片付けを少し手伝って、店を閉めた後、
マットのないビーチベッドに腰掛けて、
星を眺めたり、キスしたりした。
それから露天商でビンタンの大瓶を1本買って、
部屋に帰って2人で飲んだ。
ベッドに座ってテレビをつけたグスの肩の刺青をなぞりながら、
私はおもむろに切り出した。

「この前会った時に、ひどいこと言って、ごめんなさい。
まだ、あのときのこと、怒ってる?」

グスは私の頭をぽんぽんと撫でて、そのまま肩に頭が乗るようにした。
こめかみに、贅肉のない締まった肩を感じた。

「俺には怒れる根拠がないよ。否定されたのは、辛かったけど。」
グスは少し笑った。

「だから、今日はすごく嬉しかった。
会えると思ってなかったから。」

「私もまた会えて嬉しい。しかし、飲んだねっ、
今夜はもぅ酔っ払いだ。」

酔っ払いの私に、グスは温かいキスをした。
ビーチではオーストラリアからの冬風と冷たい酒で、唇が凍えた。
部屋の中はちょうど暖かくて、失った体温が急激に戻ってくる。
心地いい感覚。
グスの細い顎に触れた。
懐かしい、マルボロの煙が唇から伝わってきた。


Bob Marley



Jammin'

I wanna jam it wid u.

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