2008年01月24日

breakdown



オフィスの長机に向かい合って作業をする。
自分の席は別にあるのだけれど、
わざわざミーティング用のデスクで作業をしているのは
暖房の熱が届かなくて寒いせいだ。
大型のエアコンはミーティングコーナーの真上にある。

彼女は文献からデータ収集。
べらべらとページをめくっては、
付箋にちまちまと小さい字を書き込み、
無造作にべたべたとはりつける。
脇には今終わったばかりの文献、大使館でもらった付箋、
豆乳、ペーパーブランクスのスケジュール帳、野帳。

彼はラップトップでデザイナーとのやり取り。
音楽は90年代のガールズR&B。

2人はぼつぼつと、会話をした。
元々最初からオフィスで2人きりの関西人同士ということで
違う部署にも関わらず、仲はいい。

彼は、ルックスも甘えた性格も女にうけるのか、
ものすごくもてるらしく、常にガールフレンドは複数いるらしい。
今ガールフレンドが何人いると思う?と彼が聞くので、
彼女はふーんと唸って、「3?」と言った。
目は横文字を追ったまま、あきらかに関心のなさそうな様子で
まるで職場の一番の古株に対しての態度には見えない。

「3人と思う?はずれー。」

「じゃあ何人なんですか?」

「秘密〜。」

「じゃあ聞かないでください。」

彼女は緑の付箋をぺりっと一枚はぐと、ちまちまと字を書き、
べたっと左のページに貼り付けた。
音楽はアリーヤのデビュー曲が鳴っている。
懐かしく思って、少し耳を集中させる。

「人って謎があるほうが、魅力あるやん。
いい人やな〜って、いい人もええねんけど、それだけやん。」

彼は、そのトピックを続けた。
別に女が何人いようが、彼女の知ったことではないので、
謎にも満たない、魅力にならないということを言おうかと思ったが、
面倒くさいので彼女はそのままにしておいた。

「それはわかりますよ。じゃ、私には謎ありますか?」

彼女はずり下がった眼鏡を押し上げないまま、顔を少し上げ、
彼に焦点をむける。

「あんたはな、見たまんまやのに、飽きへん女やな。」

「どういう意味ですか?」

「呼吸をしてる女やから。」

「…どういう意味ですか?」

「世の中にはな、呼吸してる人としてない人がおんねん。」

そういって、彼は一旦、さめたコーヒーをごくりと飲む。

「止まってる人っていうのは、何回かあったら、もぅ
だいたいどんな人かわかってもーて、おもろないねん。
あんたの場合、わかりやすいねんけど、
今日は今日、明日は明日、息して、吸って吐いた分、変わりよる。
そんな女やわ。」

「それは、私まだまだ晒してないとこあるからですよ。」

「ほーか。じゃあ晒してみるか?」

「それは、追々。」

外線が入って、彼はしばらくデザイナーと話をする。
彼女は黙々と作業を進める。

時刻は7時を回っている。
同僚はもう、ばらばらと帰ってしまい、
デスクに残っているのは4人ほどだ。

一息ついて、チョコレートをかじり、
豆乳をすする彼女に彼は言った。

「あんた、彼氏に秘密ってある?」

「ありますよ。絶対言いませんけど。」

「いくつある?俺、略奪したこと何回もあんねん。」

「もうそのハナシは知ってますよ。」

「あんたは?」

「ありますよ。何回か。死んでもいいませんけど。」

「誰と?」

「教えません。」

「俺とも秘密つくらへん?」

「いやですよ。面倒くさい。」

彼女はげらげら笑った。

「面倒くさいことほど、おもろかったりするやん。」

「何言ってんですか。口説くなら場所考えてくださいよ。」

毎日顔を合わせる同僚とそんなことできるか、阿呆。
だいたい同僚に手出して、結局振られて
何ヶ月も傷心して、腑抜けて、
ろくすっぽ仕事もせんかったんは誰やねん。

彼女はそっと毒を吐く。
まったく、しょうがない人だと思う。

「くそー、もったいないなぁ。
泣いて喜ぶ女もおんのに、面倒くさいで断りよって。」

「センセ、ちょっとは懲りたらどうですか。」
彼女は笑う。

男も女も、しょうがない生き物だ。



mariah carey
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