2007年11月12日

Turn your lights down low



クバヤに着替えに部屋に戻ろうとしたら、
グスが名前を呼ぶので、彼女はぴたりと足を止めた。

「あれ、私の部屋でみたいの?」
「うん。だって何枚もあるんだろう?」

バナナの大きな葉が被さる通路の真ん中で、
グスは彼女を抱きしめると、キスをした。
髭の剃り残しがちくちく肌に触れて、
それでも彼女は、彼の首に手を添えて、さらに顔を近づける。

マルボロのにおい。染み付いた、お香のにおい。

石を積んで固めた塀の向こうを、
コンピアンが鼻歌を歌いながら通り過ぎる。
"I want to give you some good good loving...”

二人は手をお互いのうなじや頬にあてたまま、
声を出さずに笑った。

手をつないで、部屋に戻る。
サイドテーブルとテラスにだけ明かりをつけると、
彼女は早速、クローゼットをあけ、自慢のクバヤをみせた。

グスはベッドに腰掛けて、タバコに火をつけ、
はしゃいだ彼女の背中を撫でながら、彼女の説明をきく。

「これが、スカワティで買ったレースで作ってもらったものよ。
それから、この薄いゴールドのは、ママからもらったもの。
ビーズがきらきらしてキレイでしょう。
これもママからもらったものだけど
大きすぎたから補正してもらったの。
でも、なんだか、受付嬢みたいな柄なのよね。」

グスはにこにこしながら、
「おまえさんが選んだのが一番よく似合うだろうね。
スラウェシ通りで買ったバティックのサロンともよく揃ってるよ。」

「着てみてほしい?」
「うん。みたい。」

彼女はさくさくと服を脱ぐと、サロンを巻き、ビスチェを着け、
クバヤのボタンをぴっちり全部しめないまま、
「どう?ぴったりでしょ?」とグスにたずねた。
それまでグスは彼女の着替える様子を、静かに見ていた。

「きれいだよ。肌が白いから、深い赤がよく合うね。
サロンもずいぶん上手に巻けるようになったな。」

グスは彼女の柔らかく巻いた毛先を撫でて、煙っぽい唇でそのままキスをした。

「残念なのは、ここも赤いってことだなぁ。」
といって、彼女の下腹部をそっと撫でた。

彼女は目を丸くする。
「なんで知ってるの?」

「さぁて、なんでだろうね。」

「なんでわかったの?」

「なんでかなぁ。」

彼が答えようとしないので、彼女は諦めた。
しかし、本当に、どうして彼が生理中ということを知っているのか、
彼女にはちっとも見当がつかなかった。

「いつから?」

「今朝から。」

「あぁ、参ったなぁ。」

彼は脱力したふりをして笑った。

「でもね、あなたを気持ちよくしてあげられる方法は
いろいろあるでしょう?」

彼女はグスの膝の上に跨り、そのまま上半身を押し倒してしまうと、
何か言いかけたグスの唇を、唇で塞いでしまってから、
「気持ちよくなりたい?」ときいた。

「無理しなくていいよ。」
「無理してないわ。してあげたいの。ていうか、したいの。」

二人の欲求が満たされるまでに、5分もかからなかった。
彼女は全て飲み込んでしまうと、何事もなかったかのように、
みかんをひとつ剥いて食べた。

グスは、すっかり燃え尽きてしまった煙草を捨て、
新しい煙草に火をつけて、深く吸い込んで、
「すっげぇ」と一言呟くと、
ベッドに寝転んだまま、ベルトをしめた。

「バーに戻らないと、怒られちゃうわね。」
彼女は色つきのリップをしっかり塗って、
彼の手を引き、起こそうとすると、
逆に彼に引っ張られてしまって、彼の上にどさりと倒れてしまった。

「もっとたくさん会いたかった。」
グスはそういうと、ぎゅっと彼女をだきしめる。
「うん。」
「いけないことかもしれないけど。」
目の端に煙草の煙が見える。
灰が毛布に落ちないように、
腕をベッドの外まで伸ばしているのだろう。

「落ちてしまったんだもの。事故よ。
誰にもどうしようもないことって、あるじゃない。」
彼女は、彼の煙草を持つ指の指輪を眺めて触れる。
その指にも、ダイヤモンドのプラチナの指輪。
まったく別の人との、約束。

「難しいことは考えないで。今夜は。」
彼女がそう呟くと、グスは彼女のおでこにキスをした。


バーに戻ると、グスはスタッフのみんなに
「赤いクバヤがすっげーかわいかった。」と言って、
数十分の事をごまかした。

彼女たちは、何度もグラスを鳴らせ合って、
閉店の時間までたくさん飲んだ。
彼女に最後の挨拶だけしに来る人もいた。
握手をし、女の子や子供であればさらにハグをし、
頬にキスをした。

必ず、誰もが今度はいつ来るのかと聞いたが、彼女は
「わからないの。もし忙しくなければ2月くらい。
運がよければ12月にヌサドゥアで仕事があるわ。」
と言った。

この島の人たちは極めて楽観的なので
「じゃあ、きっと12月ね!」というのだ。
そして指を折りながら、あと何ヶ月かを数えては、
「3ヶ月くらいなら、すぐだよね!」という。

「まだ決まったわけじゃないのよ。」
彼女は、それだけしかいえなかった。

店が落ち着いてから、彼女はオゲに日本語を教えた。
「aku cinta padamu.はなんていうの?」
「そんなのいつ使うのよ?」彼女は笑う。
「旦那にいって、びっくりさせるの。」
オゲの旦那は結婚する前、
ミドリという日本人の女の子と付き合っていたので、
日本語が多少上手なのだ。
「”愛してる”っていうのよ。」
「アーイシテルッ?」
オゲは恥ずかしそうにキャーといいながら笑った。
そして青いインクのペンでメモをとった。

彼女は他にも、
「あなた貧乳ね。」と「あなた巨乳ね。」を教えてあげた。
これにはコンピアンも参加して覚えた。
きっと早速明日から使うのだろう。
グスは「おまえらほんとバカだなぁ」と、そばで笑うばかりだった。

店を閉めて帰るとき、オゲは少し泣いた。
「オゲは私のバリのお姉ちゃんだよ。日本に帰っても変わらないよ。」
彼女がそういうと、オゲは笑った。
「妹の幸せと成功をいつもここから祈ってるよ。彼氏に優しくね。」
「うーん。努力するわ。」
何度目になるかわからないハグとキスをして、名残惜しそうに、
ようやくオゲはヘルメットを抱えた。


bob marley
オフィシャルサイト

turn your lights down low
ft. Lauryn Hill


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