2007年10月26日

again & again



「あら、またウパチャラだわ。」

3度目のマッサージの帰り、KFCのある交差点の、
州都へ続く道は閉鎖され、真っ白と黄色の衣裳を身に着けた
老若男女でびっしり埋め尽くされている。
彼女は、KFCの前で運転手に止まる様にいいつけた。
「ここで、まてばいいのですか?」といった運転手に
「いいえ。後は歩いて帰るから、戻っていいですよ。ありがとう。」
と彼女は言った。

運転手は本当に大丈夫か心配そうな表情をしたが

「仕立て屋さんも、宿もここからすぐ近くだから大丈夫。」
と彼女が言うと、にっこり微笑んで、エンジンをかけた。
「社長さんによろしくね。よい夕べを。」
彼女はそういって、ドアを閉め、すたすたと白装束の男達の間を
縫うようにして歩いた。

こんなときに限って、短いホットパンツをはいている。
彼女は男達の視線がぎっしり足元に集まっているのを重々承知しながら
足早に歩く。

彼女の視線はというと、あちらこちらと、彷徨っている。
グスを探しているのだ。
こんなに沢山の人がいる中で、彼を見つけ出すことは不可能に近い。
それでも彼女は彼の姿を探した。

「なんで、そんなに急いで歩くの。」
婚約者が後ろから、彼女の手を掴む。

「パレードが始まったら、動きにくくなるからよ。」

そうではない。
彼女は自分のカジュアルすぎる恰好が恥ずかしかったのだ。
彼女は渋々、婚約者と手を繋いで歩道沿いを行く。
目が合う人々は誰もが満ち足りていて、
この儀式がいかに重要なものであるかがよくわかる。

2週間続いた儀式も最終日だ。

コンピアンとオゲの実家のある通りの入り口に差し掛かると、
美容室の店先の女が彼女を呼び止めた。

「おじょうちゃん!!待ってたのよ!」

「あ、仕立て屋さんのおねーさん。」

仕立て屋の女はすたすたと店の方へ歩く、
彼女もその後ろについていく。

「ごめんなさい。もしかしてもうお店閉めちゃってたの?」
「えぇ、あなただけ待ってたのよ。」
「本当?ごめんなさい。」
「いいのよ、さ、できてるわよ。試着してみて。」

彼女が市場で買った深い赤のレースの生地は、
きれいな伝統衣装になっていた。

「すてきね。」
彼女は粗末な試着コーナーに入る。
カーテンはピンで留めてあるだけなので、時々揺れて、
外の儀式に参加している少年たちの姿が見えた。

肌にぴったりはりつくようなサイズで作らせたクバヤは
彼女の肌の色によく合っていた。

美容室のスタッフも、仕立て屋の他のスタッフも
どこからともなくわらわらと集まってきて
みんながみんな「まぁよく似合うわね!」と感嘆し、
「ぴったりね!」と自分の腕を自賛した。
「胸が小さいのが残念ねぇ。」と余計なことも言った。
「妊娠すればちょっとは見栄えするかもね。」と彼女が言うと、
女達はきゃっきゃと笑った。
婚約者だけがきょとんとして女達の様子を見ていた。

もう1枚サイズ直しをしたクバヤもぴったりで、
やはり女たちは感嘆し、自賛した。

彼女は支払いを済ませると、通りに出る。
目の前を僧侶階級の人々がゆったりと通りすぎる。
グスがこの中にいるかもしれないと思うと、
彼女は途端に恥ずかしくなって、逃げるようにきた道を引き返した。
一目でも会いたかったけれど、
自分のだらしない恰好を見られるのはいやだった。
せめてサロンを持ってこればよかった。
彼女は流行のクバヤを着て思い思いにおしゃれをしている女の子達をみては
まったく予期していなかった儀式の遭遇を憂えた。
グスの正装は初めて出会った夜に見たことがある。
その時は、地元のフレンドリーな人たちの一人としてしか
みていなかったから、どんなふうだったかは覚えていない。
でも、きっととてもかっこよくみえるにちがいないのだ。

白と黄色の装束の人々の数は増えに増え、
ぎりぎりの隙間をぬってバイクと乗り合いバスが走る。

バイパスは完全に渋滞していた。
バイク一つ通らないバイパスを、ぞろぞろと正装した人々が歩く。
頭に籠をのせた女、傘をもつ男、楽器を叩く男、
はしゃぐ子供達、ただ談笑しながら笑顔で歩く人たち。

北の海岸の埠頭まで、歩いて行くのだ。
そこで、先祖の霊を送るんだという。

バリの宗教儀礼は、日本の昔の民間儀式によく似ている部分があって、
どこかすんなり許容できてしまう。
西洋人の婚約者にはまったく不可解な行為や作法、道具は
たくさんある。

西洋人とは根本的に理解しあえないことや、相容れないことがある。
バリのママが、いつか彼女に耳打ちした言葉を思い出す。

西洋人の嫁になるのであれば、覚悟が必要だ。
本来なら必要ない部分で強くある覚悟が。

彼女は、その覚悟というものについて、思案するようになった。
ママがいったことはもっともなのだ。
私たちは結局言葉でしか分かり合えないのだ。
充分自由でもない言葉でしか分かり合えない。
そんな心許無い関係に耐え切れるほど、
私は強くはないし、鈍感でもないのだ。
彼女はそう強く思うようになっていた。

覚悟の必要ない関係は存在しないけれど。
強弱は少なくともあるはずだ。

行列は途切れることなく、
ぎゅうぎゅうに渋滞した車とバイクが少しずつ動き出した頃合いを見て、
彼女は、婚約者に「もう少しみたいか?」ときいた。
彼が、別にいいといったので
二人は浜辺の方へ歩き出す。

彼といると、男といるというより、
子供といるような感覚がある。
彼女は彼の手をひいて、歩く。


The bird and the bee
オフィシャルサイト

Again & again
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