2007年10月16日

get up, stand up



「12日に、夫が来るわ。1週間だけ。」
彼女がそういったとき、グスは
「参ったなぁ。」と間をおいて2、3度呟いた。

「一緒に、帰るの?」

「いいえ、同じ飛行機をとらなかったから、
彼のほうが2日先に帰るわ。」

「そっか。」

彼が、来ないのはそのせいかもしれない。
そう思いながら彼女は、アグンの後釜に雇った2人組の音楽を
明らかに聞いてない態度で露店の方ばかりをみていた。

隣では、ここでは夫ということになっている
婚約者が、ビールをちびちび飲んでいる。

咳が止まらず、コニディンを飲んだので、
アルコールを一切のめない彼女は、バナナジュースを
つまらなそうに飲んで椅子にもたれかかる。

彼女の機嫌が最悪なのは、
お酒が飲めないからというだけでも、
グスに会えないからというだけでも、
新しいバンドがださい上にど素人だからというわけではなかった。
問題は、隣に座る男にあるのだ。

彼の彼女に頼りきった態度、
彼女がなんでもオーガナイズしてくれると思い込んでいる傲慢さ、
そしていちいち、びくびくしながら歩くところや、
歩きながらべたべたと触れてくるところが
気に入らなかったのだ。

この男は、ビザ代にドルがいくら必要かも調べていなければ、
どこにいってみたいかも調べていない、
完全に丸腰で、すべて私に頼るつもりでここにいる。
ナニが休暇だ。手がかかるだけに、仕事をしている気分となんら変わらない。
彼女は、最高に不機嫌だった。

「明日、マッサージにいくわ。」

「どこに?」

「ダナウタンブリンガン通り。」

「それってどこ?」

「どうせ説明したってわかんないでしょ。
地理もろくすっぽ知らないくせに
空港でマップすら取ってきてないんだから。
ここからバスで5分くらいよ。
知り合いが斡旋してるマッサージ研修のモデルをお願いされてるの。
2時間くらいでおわると思うけど。」

薬が強すぎるせいか、
機嫌が悪すぎるせいか
音楽がひどすぎるせいか、
眩暈がしてくる。

コンピアンは本気でこの2人を採用するつもりだろうか。
これなら、隣のホテルのカントリーミュージシャンのおっさんの方がマシだ。
彼女は手のひらで目を覆う。

「マッサージの間、僕は何すればいい?」

「あんたのすきにすればいいでしょう。」

「どこに何があるかわからない。」

「いいかげんにしてよ。いい大人が甘ったれてんじゃないよ。」

彼女はぴしゃっと言い放ち、思いのほかその声が通ったので、
カウンターにいるオゲまで心配そうに彼女たちの方を見た。

「なんで怒るんだよ。」

彼は一言そう呟くと残りのビールを飲み干した。
彼女のバナナジュースは細長いグラスにまだ半分以上のこっていた。
眉間に皺を寄せたまま、彼女は椅子の背に頭をもたれる。
右手の薬指の指輪を睨んで、深いためいきをついた。

海からの風は、いつもどおり冷たく吹きつける。
彼女は首輪をつけられたイグアナみたいな気分だった。
もう一言彼が何かぐずれば、逃げ出してしまいたいほどだった。



Bob Marley

オフィシャルサイト

Get up, Stand up
by youtube.com

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