2007年09月25日

Killer Tune



新婚の日本人女と、妻子あるバーテンダー、
これから彼女の住むドイツへ行こうとするアコースティック・シンガー。
2人の男はパートナーがいながら、女に思いを寄せていた。
彼女は彼女で、その思いをどちらも、
受け止めるでもなく、流すでもなく、拒否するわけでもなく
ふわふわと対応していた。

それをバーのウェイトレスたちは単に、
彼女のそういう物腰の柔らかい性格のせいだと思っていたが、
それにしたって、旦那に不義理じゃないかとも感じていた。
仕事だから仕方がないにしても、新婚のわりに家を空けてばかりだし、
旦那のことをのろけることも一切なく、写真も持っていないというし、
実在するのかどうかすら疑わしい旦那の存在は希薄だった。

男達に関していえば、なぜ彼女にばかり執着するのかがわからなかった。
店に来る女は何も、彼女だけではないからである。
シンガーの方は、外国人の女なら誰にでも愛想よく接したが、
特に真面目でわりと晩熟なバーテンの方が彼女のことばかり気にかけて、
ペティナイフで指を切りかけたり、グラスを落としたりする度、
余計に女たちのゴシップ魂に油を注いだ。

男達はお互いのことをどう思っているのか。
彼女が実際にすきなのはどっちなのか。
関係はどこまで進んでいるのか。
バーテンはどこまで本気で彼女にはまっているのか、
妻には気付かれていないのか、など。

閉店間際にシンガーが浜辺の散歩に誘うことが最初のうちは多かったが、
この頃では、バーテンの方が閉店後に瓶ビール1本を開けて
彼女の分とグラス2個をもって、
片付けたばかりの椅子を下ろすことが増え、
形勢はどうやらバーテンの方が勝っているようにも見えた。

とはいっても、
シンガーがステージ上でもいちいち彼女の名前を出して歌ったり、
わざわざ日本語の挨拶をしたり、
特に誰も気付かないようなキーの小さなミスごとに、
二人が交わす意味深気なアイコンタクトと微笑みには、
並々ならぬ親密さがあり、実際のところはよくわからない。

最近はバーテンの方ですら、人目も憚らず彼女の髪やうなじをなでたり、
彼女の手をテーブルの下で握っていたりするし、
シンガーが同じ事をすれば少し嫌がってみせる彼女も、
バーテンの手が触れるのはおとなしく受け入れていたりするし、
何を考えているのか、時々そこらへんの土産屋の男の子や、
絵描きの男の子を連れてきて、ちんと座り、飲んでいたりする。
シンガーの行動はまぁこんなものだろうと想像できても、
バーテンののぼせっぷりは日に日にエスカレートし、
彼女の不思議さも日に日に増すばかり。
ますます、この三角関係から目が離せなくなっているのだった。

これは男2人に共通していえることなのだが、時々、
彼女の部屋はすぐそこなのに、送ってくるといって、
何十分も帰ってこないこともある。
彼女が一人で帰ってしまった時は、自分も家に帰るフリをして、
彼女の部屋にこそこそと通っているのも、女達は気づいていた。
表面上は、3人とも仲良くやっているように見えるのは、
どういうことなのだろうか。
明らかに、もめる要素はあちこちに散らばっているのに、
3人で仲良く同じ瓶の酒を飲んで、談笑していたりするのだ。
男達が牽制し合っているともとれるかもしれないが、
バーテンは妻子持ちという立場上、彼女を堂々と誘えないので、
シンガーがいるときは必ず、シンガーに彼女を譲っている。

女たちが彼女に真相を聞きたいと思っても、オーナーやコックを含め
いつも店の男たちがちやほやと取り巻いているので、隙がない。
当事者の男達にきいてもはぐらかされに決まっている。

女たちはいろんな憶測を立ててはきゃっきゃと喜ぶしかなかった。




東京事変

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