2007年06月30日

2 men



毎晩コーラ割りの蒸留酒ばかり飲んでいる。
氷をカロンと鳴らせながら呷ると、
ライムの薄皮が唇に触れる。
そっとそれを中指でつまむと、砂浜に捨てた。

その手をそのまま握って男が言うには。
「白い絹のように柔らかい
君の手に口づけてもいいですか。」

左手首の柔らかいところに、
小さなツバメの刺青をいれた男。

彼女は男の目を黙って見る。
そしてその手を見る。
ギターとオフロードバイクのたこはあっても、
彼の手はキレイだ。
肉体労働をする人の手ではない。
彼が裕福な家庭の息子だということは、
簡単にみてとれる。

「あなたの高貴なお口には
私の手は汚すぎると思うわ。王子様。」

彼女は手をするりと引き抜き、膝の上に丁寧に重ねた。

「今夜はどうして髪をまとめてしまっているの。
今すぐ解いて。君の柔らかい髪が風に踊っているのを
見るのが好きだよ。」

彼は彼女のおくれ毛を指先で捕らえて、言った。

王族の末裔の彼は、強引でわがままなところがある。
バイクのエンジンをすぐ壊してしまうのも、
きっとそのせいだ。

前の夜遅くに、
彼の唇は彼女の両頬に触れ、
大きな手は彼女を背中をゆったりと温めた。
彼の甘い声。どんな高慢な女・貞淑な女だってきっと、
恋に落ちてしまう声で素敵な言葉を耳に注いだ。
親密な挨拶の、ほんの一瞬に。

彼女はそれを思い出して、
鳩尾の辺りがふわりとするのをごまかすように、
きゅうっと酒を飲み込む。

彼は言った。
「君だって、ほしいのはわかっている。」

彼女は答えない。
ただ彼の目をじっと見つめて、
ガマンできずに笑いをふきだした。
彼も同じくからりと笑い、そして彼女に小さなキスをした。


右手の薬指に、3つの指輪をつけている男。
金の細いリングの間に小さなダイヤが無数にはめ込まれた
大きく膨らんだ金の古い指輪。
ひどく華奢で器用な男の指によく合う。
男の指は長くまっすぐで、
その手でなんでもこなしてしまう。
しかし彼の手も、この浜辺で働く他の男達の手とは違う。
滑らかな手をしている。

彼女は特別、彼が、咥えタバコでカクテルを作っているのを
観るのが好きだった。
時々見える、二の腕の刺青や、
いつも清潔にアイロンされている柔らかそうなシャツが
小刻みに揺れるのも、どれほど眺めても飽きなかった。

彼女に対する彼の気遣いや好意は明らかだったが、
彼はそれを全面に押し出さず、笑い飛ばしてごまかした。
そういうところも、彼女の気にいっていた。

ある日の夜。雨がいつまでも止まらない冷たい夜。
彼は長い間会っていなかった友人と大いに飲み、
珍しくひどく酔っていた。

波打ち際でうずくまりながら歩く彼を見て、
彼女は心配になり、突然席を立つと、彼の側に駆け寄った。
距離がずいぶんあったので、彼の元に着くころには、
波打ち際ではなく駐車場で、
真っ白な街灯の明かりが2人を照らした。
細い雨が長い線を引くように降っている。

「大丈夫?すっごく酔ってるのね。」

彼は彼女の頭をぽんぽんと撫でると、そのまま抱き寄せた。
細い腕が彼女を包んで、彼女はその状態に少し驚いた。
彼がそうすると思っていなかったからだ。

奥さんや1歳になる娘も、
こんなふうに抱きしめるのかしら。
彼女はふと、そんな風に考えた。

「大丈夫。俺は今から帰るから、
君はあんまり遅くまで飲まずに
酔っ払う前に部屋に帰るんだよ。」

彼はふらふらとバイクにキーを挿そうとするので、
彼女は思わずその手を止め、彼の両頬を手で包んだ。

「酔いが覚めるまで少し休んだほうがいいわよ。
雨も降ってるし、危ないわ。」

「大丈夫だよ。君こそ、こんな冷たい雨の中、
飛び出してきちゃいけない。今夜は飲むのをやめて
早く部屋にお帰り。もう充分遅い時間だ。」

彼はそう言って、また彼女をやさしく抱きしめた。

「うちで少し休んでいくといいわ。
バーに戻ればどうせまた飲んでしまうでしょう。」

彼女はそう言って、部屋の鍵を渡した。

それからバーに戻り、残りのお酒を飲み干してしまってから
会計をし、小さなツバメの刺青の男に挨拶し
近くの露天の娘をたたき起こして水を1本買い、部屋に戻った。

彼は行儀よく、テラスの椅子に腰掛けたまま眠っていて、
彼女が水を差し出すとおとなしくそれを飲み、
さっき街灯の下でしたように、
彼女の耳あたりを華奢な手で包むと
今度はそっとキスをして、
鼾をかきながら眠ってしまった。


norah jones
オフィシャルサイト

2 men
試聴(WMP)


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。